死の舞踏
清浄な賢人であった男は己の肉体を切り刻み、涙と血で練り上げて、強靭な肉体へと変貌させる。
悲壮な自戒を舞台衣装として身に纏い、父祖の断末魔を開演の合図に、熟れた薔薇の敷き詰められた黄金の劇場で剣舞を舞う。
燃える月の刃は、絨毯代わりの薔薇を映し、血に濡れた白磁の女の肌のように怪しく光る。
男の舞踏の激しさに、薔薇の花弁は舞い上がり、紅涙のように降り注ぐ。
その絢爛さに無人の観衆は魅了され、万雷の拍手で讃えれど、男が耳を貸すことはない。
認められぬ観衆は幽鬼と変わらぬ夜の露。
ゆえにその真価を見ることが適う者はおらず、もとより知ることは許されない。
男は神の数の形に刃を振り下ろし、罪の首を切り落とす。
こうべの落ちた首からは夜が流れ出し、地上に永遠の闇が垂れ込める。
男から逃げ出そうとするかのごとく、罪の血は這うように広がりゆく。
その様を見た男は、一滴の血でさえ赦されざる罪の子と言わんばかりに、赤く染まった地へと刃を突き立てる。
それは男と大地を繋ぎ、狂乱に燃えたぎる岩漿の血脈が大地を貫く。
その熱さに戦く大地は、陶器の女のごとくに砕け散る。
この偉業を讃える者はおらず、ただ男一人がそれを知る。
ならばそれは終わりなき舞台。
観衆のいない舞台の幕は下ろせない。
終幕を迎えられぬ舞台は無限の地獄。真実と幸福へ永久に辿り着けぬ、偽りの神の国。
男は一人、罪に汚れた大地に支えられて生きていく。