無題(2編)
「そもそも言葉ほど不確かなものはない。
燃える氷、生ける死者、永遠の愛……存在しないものでさえ言葉の上でだけは、いとも簡単に成立してしまう。
言葉とは、夜霧に映る影より不確かで、朝に見る夢より遥かに曖昧な、幽鬼のごとく実体なきもの。
それに支えられる我々人間など、覚めれば消える一夜の夢に過ぎぬのだ」
「真に美しいものを目にした時の感動。
それは言葉では到底捕まえられず、絵でさえも捉えることはできない。
他者に見える形でその思いを表現できる唯一のものは、語る術はいうまでもなく、形はおろか、色さえもない涙だけなのだ。
ならば人の思いとは、見ることも触れることも、永遠に叶わぬものなのだろう」
死の舞踏
清浄な賢人であった男は己の肉体を切り刻み、涙と血で練り上げて、強靭な肉体へと変貌させる。
悲壮な自戒を舞台衣装として身に纏い、父祖の断末魔を開演の合図に、熟れた薔薇の敷き詰められた黄金の劇場で剣舞を舞う。
燃える月の刃は、絨毯代わりの薔薇を映し、血に濡れた白磁の女の肌のように怪しく光る。
男の舞踏の激しさに、薔薇の花弁は舞い上がり、紅涙のように降り注ぐ。
その絢爛さに無人の観衆は魅了され、万雷の拍手で讃えれど、男が耳を貸すことはない。
認められぬ観衆は幽鬼と変わらぬ夜の露。
ゆえにその真価を見ることが適う者はおらず、もとより知ることは許されない。
男は神の数の形に刃を振り下ろし、罪の首を切り落とす。
こうべの落ちた首からは夜が流れ出し、地上に永遠の闇が垂れ込める。
男から逃げ出そうとするかのごとく、罪の血は這うように広がりゆく。
その様を見た男は、一滴の血でさえ赦されざる罪の子と言わんばかりに、赤く染まった地へと刃を突き立てる。
それは男と大地を繋ぎ、狂乱に燃えたぎる岩漿の血脈が大地を貫く。
その熱さに戦く大地は、陶器の女のごとくに砕け散る。
この偉業を讃える者はおらず、ただ男一人がそれを知る。
ならばそれは終わりなき舞台。
観衆のいない舞台の幕は下ろせない。
終幕を迎えられぬ舞台は無限の地獄。真実と幸福へ永久に辿り着けぬ、偽りの神の国。
男は一人、罪に汚れた大地に支えられて生きていく。
とりあえず投稿してみる。
いざ投稿しようとすると、何を載せればいいのかわからない。